第三章・表/16





「――――っ!?」

両目を最大にまで見開かせて飛び起きた。
寝汗が髪を重く塗らし、前髪は纏わり付くようにして額に張り付いているがそんな事も気にならなかった。

ひどく――――ひどく、息苦しい。
陸に打ち上げられた魚よろしく、必至に酸素を求めて口をパクパクさせてしまう。
肩も上下させ、全身を使って呼吸する様は傍から見れば瀕死の病人か今際の際を迎える重傷者に見えるだろう。

聴覚に飛び込んでくる忙しない音が馬鹿みたいに煩い。
何の音だ、一体。えぇい、何でもいい。喧しい。黙れ―――――っと、頭を一つ振りながら罵倒の言葉を飲み下す。
口にして言うのも億劫だった。鼓動はバクバクと猛スピードで打ち鳴らされ、体内を循環する血液の流れまで音として聞こえるような錯覚に捕らわれる。

何やらやたらと身体が重い。声を出すのも億劫ならば、腕を動かすのも面倒だと感じるほどに。
寝汗を吸って異様なまでにベッタリと肌に張り付く服がどうしようもないほどに不快で、重く感じられるからだけではないようだった。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ」

喧しいほどに煩い音が自分の呼吸音だと気付くまでに暫しの時間が必要だった。
それだけ現状を全く認識していなかったのだが、気付くと同時に深呼吸を数回繰り返し、呼吸を落ち着かせる。
深呼吸した後も充分とは言えず、肺は新しい空気を欲しているようだったが無視してのける。

お世辞にも良い目覚めとは言えない気分だった。とは、柔らかくした表現であって正確に言うなら気分が悪い。
あらゆる色を混ぜ合わせ、黒々と濃く濁り、
ヘドロが沈殿する腐った水に等しい混濁した色調の混沌の鍋に叩き落され、一緒くたに棒で掻き回された後のような気分。

胸糞が悪い。喉に胃液が込み上げてくる。吐きそうだ。気分が悪かった。とてつもなく。
毒を飲み下した直後のように両手で喉を掻き毟る、ただゆっくりと、爪を立てながら。
込み上げてくる吐き気を唾と一緒に飲み込むと、逆流する不快感に耐えながら重々しい呼気を吐き出す。
濁りきって腐った魚を思わせる目線を床から上に上げれば、
本棚の間を縫ってカーテンの隙間から入り込む弱々しい朝日がカーペットにちらちらと落ちていた。

「あぁ、もう朝か・・・随分と長かったな・・・それとも短かったのか」

何時の間にか眠っていたらしいが、意識がなくなるまでは拷問のような時間の責め苦を味わっていたのだから短いとも言えず、
さりとて長かったと断言することも出来ない。
蜃気楼に似た弱く儚い朝日に眼を向け、薄ぼんやりとした光の輪を瞳に映していると頭に鈍い沈痛の疼きを感じ出す。
吐き気は催す、やたらと息苦しい、汗が不快だ、動機が無意味なほどに飛び跳ねて中々静まらない、加え、頭痛。

色々と酷い気分だった。
最悪に近いが・・・・最悪と呼ぶにはまだ遠い。
最悪の類似品、のようなもの。

「く――――っ」

額にへばりつく前髪を掻き揚げた手を戻さず、甲で頬を伝う汗を拭う。
胸に蟠る黒い靄を残さず吐き出そうとした長く深い一呼吸は、口内から吐き出される時、黒色に色が付いていないのがいっそ不思議だった。
溜息にも似た呼気が真っ黒であって然るべきだと錯覚できるほどに、胸に沈殿している代物は、
混じり、溶け合って、ごった煮状態になった感情の成れの果てだった。
それを排出しようと吐き出した呼気なのだがら、真っ黒な色が付いていてもおかしくはないだろう。

何にせよ、こうも気分が悪い理由は夢見にあるのかもしれない。どうにも夢見が悪かったようだ。
イマイチ内容は覚えていない・・・いや、起きた直前までは覚えていたのに、起きて暫く経った頃には忘れてしまっていた。
とにかくも、悪い夢を見た。それだけは間違いなく断言できた。

夢現な気分に浸りながら迎える至福の朝とは異なり、泥沼の中で目覚めた最悪の朝でも、目覚めの儀式は何ら変わらない。
気分が良かろうが悪かろうが、眼が覚めてまず最初に行う事は顔を洗う事である。
生温い温水か汚濁の沼か、どちらにせよ、意識に絡み付いている夢の残り香を払うには冷水で顔面を叩くしかない。
起床直後だと言うのに逆に疲労した動きで、光琉は鉛のように重たい気分と足を引き摺り洗面所に向かった。

思い切り良く蛇口を捻ると、塞き止められていた水が流れる先を見つけたようにドッと勢い良く飛び出してくる。
耳に飛び込む水の音に、両手で掬うのももどかしく頭から洗面台に突っ込み、浴びるようにして冷水を味わう。

目覚めて顔を洗うと言う行為が最も効果的な季節はやはり夏と冬だろう。
冬は冬眠を貪る熊よろしく、暖かい寝床から起きたばかりのうちは意識の覚醒には程遠く、
考える事はただ温い場所にあと10分、あと5分と留まる事しか頭に無い。
そこを持って寝ぼける頭に凍えるほどに冷たい水をぶっかけてやれば、どれほど強情に居座る睡魔も逃げ出すものって寸法だ。
また、夏の暑さの寝苦しい朝を迎えた後は、頭の中に熱気が靄のようにかかり、外界からの刺激が蜃気楼のようにぼやけて鮮明にならない。
起きたばかりだと言うのに寝汗をかいて不快であり、苛立つ意識も暑さの為に正常に働かない。
そこに一種の清涼剤として冷たい水を浴びれば、熱気に魘される意識もようやく解放されるのである。

「プハッ」

砂漠でようやく巡り合ったオアシスで渇きを癒すようにして、光琉は満足するまで冷水を浴びると、水浸しの頭を洗面台から引き抜いた。
顔どころか頭から首までずぶ濡れになって、水を含んだ髪が鼻に頬にと張り付いているが、不快などではなく、むしろ爽快なほどだった。
先ほどまでは頭蓋の内側を質量を持った闇が燻るように支配し、隅々にまで黒い触手を伸ばしていたのだが、
頭から浴びた冷たい水のおかげで黒々と落ちていた闇色のカーテンは払い除けられたようだ。

「ふぅ・・・」

これでようやく一息つけた。生きた気分を味わうってやつだろうか。
夏の気温に冷えた水は実に心地よく、昨晩からずっと続いている、
悪夢を見せられるように魘されていた焦燥感と不安からも一時的にではあるが解き放ってくれた。
頭の方が覚醒を果たしたところで、「さて、どうしようか」と今後の課題を考えてみる。

もう日も改まったことだし、あの着物の少女から何らかの音沙汰が合っても良い筈だった。と、言うより、向こうから接触があるのを期待している。
実際どうするかは決められないのだが、このまま家で待機しているのは遠慮するところであった。
時計の針を気にしつつ、ジッとしているだけの忍耐心は昨晩で綺麗さっぱり使い切った。
大体、秒針が刻む音とテンポは心に不愉快なまでの悪影響を及ぼしてくれる。
通常の状態であるなら問題なく無視も出来るのであるが、
焦燥感の檻に囚われた心理状態の時にあの規則正しく刻まれる音を聞いていると嫌味だとしか感じられず、苛立ちを制限無重ね上げるだけだった。

その前に、今現在が何時なのか確かめたい。
起きて、カーテンの隙間から漏れる細い光の筋で朝、もしくは、昼近くだと言うのは解っているが、正確な時間帯は確認していない。
別に時間を確認したからどうなるものでも、今後の予定表にどんな影響があるわけでもないが、ただ何となく知りたかっただけなのだが。
ついっと視線を横にずらせば、刷りガラスから射し込む光とぼやけがちながら見える景色の色は鮮烈で、正午にもまだ遠いだろうと思われた。

タオルを手に取り、無造作に顔を拭く。
ある程度拭い終わると濡れて重くなったタオルをこれまた無造作に洗濯籠へと放り投げ、洗面所を後にする。
玄関先に足を向けている途上、頭の中でこれからの予定を立てており、その中の一つに、最も具体的で有力な一例を思い浮かべた。

今すぐに家を出て、ホテルサンロイヤルの前でシェミハウルが表に出てくるのを待って尾行しようというものである。
シェミハウルはハルファスの行方を追っているのだから彼の後をつければ、いずれ辿り付けるだろう。
何より、あの男はそうした異端の荒事を専門とする組織の人間なのだからこちらより有益な情報も掴んでいるかもしれず、
掴んでいないにしても、いずれ掴むのは確実だろう。

素人が考え無しで、一日を無為に費やして無闇に動き回るより、あの男一人を尾行した方がずっと効率的であるに違いない。
一見旨い手だが、成功する確率は限りなく低いだろう。零に近いほどに。

問題があるのだ。難問が。この方法に欠かせない人間、シェミハウルがまさにソレだった。
あの上っ面だけの仮面紳士が黙って尾行させてくれるとは限らない。
間違いなくこちらの動向を気取る。それは確実だと言えた。いくら嫌いな相手であれ、
彼我の歴然とした実力差は認めているのであって、自分が素人に過ぎない事も事実以上に痛感している光琉だった。

万が一にも、シェミハウルが尾行に気付きながらも黙認してくれたとしよう、されど、いざハルファスと対峙する場面になって、
こちらを噛ませ犬として舞台上に引き摺り上げる程度の策謀は考えるに違いなかった。
尾行を悟りながら黙っているなど、あの男の場合は気紛れなどと言う場合は考えられず、尾行者を体良く利用しようとする魂胆からでしか考えられない。
と、考える内容は、偏見である可能性は無論あったが、光琉自身がそう信じたいのであって、この際事実如何は関係なかった。
シェミハウルをそこまで嫌っている。そう言えばそれまでだろう。
加え、陰険な策謀を巡らせられるような人間ではない、と、断言できるほどシェミハウルは聖人でもないのも事実だった。

玄関まで歩いたところで、光琉は足を止めた。
これから本気でどうしたものだろうか、と、思い悩む。
このまま家を出てもいいが、行き先を定めない事には宛ても無く街中をふらつくだけで終わる可能性が高い。
かと言って、宛てなど何一つも無いのは確かであった。どこまでいこうとも、彼は無力な一般人に過ぎず、一人では何の知識も無ければ情報も持ってない。
無知にして無力な彼が頼れるのはあの着物姿の少女のみ。今のところは彼女からの接触待ちしか出来る事がなかった。
ここで大人しく待機していられる性格なら、鈍重なテンポで動く時計の針を見て募る苛立ちも減少されている。

ふと靴箱の上を見上げる。壁掛けの時計が眼に留まった。
先ほどから少し気になっている時間を確認すると、まだ10時を少し過ぎた辺り。正確には7分だ。
昼食にはまだ早い時間帯で、朝食には遅すぎる。だが、朝食と昼食を兼ねているなら問題はなかろう。
ただ、食事をとるにしてもあまり食欲は無かった。有事の際に備えて食べておかないと満足に働けないと思いつつ、胃が食物の受付を拒否している。
食欲が無い。昨夜、家に戻ってから全く口にしていないが空腹は感じていない。食物の代わりにごった煮の感情が胃を膨らませているからだろうか。

腹は減っていない。代わりにシャワーを浴びたいと思った。
起きた直後はそれほど気にもならなかったが、洗顔で頭から水浴びをしたのが原因となったのだろう、肌に感じる汗の感触がいやに不快だった。
汗の臭いはまだしも、肌表面に感じるベタ付きが我慢できず、思い立つや否や、玄関先からさっさと踵を返し、階段を駆け上る。
クローゼットの中から換えの服を用意して、ついでに、充電しておいた携帯電話を引っ掴み、一階に戻り、着ていた服を一纏めにして洗濯籠の中に放り込む。

ゴトンと、何か硬い物が落ちる音が聞こえ、振り返る。
洗濯籠に放り投げた服の塊が音の発生源のようだ。
ベルトのバックルかとも思ったが、ベルトや財布、携帯電話などの洗濯の邪魔になるものは取り出してるから、硬い音なんて聞こえるはずが無い。
訝しがりながらも一つに丸められた洗濯物に手を伸ばす。
手にとって持ち上げたところで、ジーンズの尻ポケットから何かがこぼれ、鈍い音を立てながら床に転がった。

ポケットから落ちたものは折り畳み式のナイフだった。
安っぽい形のナイフ。割と大きなホームセンターならばどこにでも売っていそうな品。目新しくも珍しくも無い。
それは、小矢のナイフだった。彼女が使っていたナイフ。
二日前に拾ってからずっと返し忘れていた物をポケットの中に入れっぱなしになっていたようだ。

指先で摘み上げ、掌の中で重さを確かめるように弄ぶ。
窓から射す朝日を受けて鈍い光沢を放っている。
木造の年輪模様が施されている柄は真鍮製だろうか。
安っぽい見た目の癖にしっかりとした重みが掌に感じられる。
くすんだような鈍い光沢を持つナイフを複雑な面持ちで眺める。
数秒ほど視線を与えていたが、やがて横に視線を逃がすと手に持つソレを財布などと一緒に洗面台の上に置く。

バスルームへと顔を向ける途中で洗面台の鏡に映り込む自分の虚像と眼が合った。
ふと、こんな状況でも日常らしい事を気にして、日常の風景の中に自分がいるのに気付き、ひどく奇妙な感慨に囚われた。
無論、心地の良い感慨ではなかった。朦朧と立ち込める霧の迷路に迷い込んだ感覚・・・とも違う。
曖昧で不可思議な感じ。自分が居る世界と、世界の形を見失っている。何をしているのだろう、と、些細な疑問が頭を掠めた。
非日常の中の日常。そんな場所に今、自分は立っているのかもしれない。
得てしてそうしたものが生き物と、人間と言うヤツかもしれない。どんな状況に置かれようと腹も減るし眠くもなる。汗を流せば不快だと感じる。
それとも環境適応力の高さか。光琉は自分が思うほどに現在の状況に順応しているかもしれなかった。

かなり勢い良くシャワーノズルから飛び出す温水を自分から被りに行く。
熱くもなく、温くもない適温。リラックスから生まれる吐息を吐き出す。
先ほどの洗顔で頭の中はスッキリしているのだから、熱めのお湯を浴びて無理矢理に頭を覚醒させる必要は無い。
ただ、肌をべたつかせていた汗だけでなく、久しく感じられるシャワーは精神の垢も洗い流していくのか、心が僅かばかり軽くなった気がした。

心地良い気分に浸れる温水のスコールに打たれる光琉は、身体のあちこちでしくしくと疼く鈍い痛みを覚えた。
肩に足にと、数箇所の生傷が水に濡れて痛み出したのだ。この夏の間で受けた戦傷である。
傷を負った直後は多少なりの出血もあったし、無視できないくらいの痛みに苛まされる事もあったが、
どの傷もそれほど深くはなかったようで、数日中には問題なくなっていた。

気を引き締めて傷の痛みを無視すれば腕も肩も足も不自由なく動かせるが、
就寝直前だとか、起床して暫く経った時だとか、気を緩ませると疼くような痛みを感じさせるだけであった。

傷の治りが速いのは昔からで、人より回復能力が幾分高いのだろう。
体内ではエネルギーの生産・消費・交代とが効率良く行われているに違いない。
筋肉と反射神経などを判断基準とする身体能力はともかく、自己治癒力に関しては優秀と誉めても良い。
なんにせよ、短期間でよくもまあこれだけの傷をこさえたものだと我が事ながらに呆れ、
次に、火の粉降る出鱈目な渦中を掻い潜り、これだけの傷で済んでいる事は、実際、尋常ならざる幸運が働いた成果だと思えた。

シャワーで全身をさっと流し終え、換えの服に着替えを済ませると居間に足を向けてソファに腰掛けている。
バスタオルでまだ濡れて重い髪を乱暴に拭う。一息つくと心持ち身体が軽くなったようだ。
気分的に心身に生命力が蘇ってきた気がする。汗を洗い流せてサッパリしただけだが、それでも大分違う。

中天座に近づく日光は強く、夏の日差しそのままで、ガラス戸と白いカーテンに遮られる室内をも鮮やかに照らす。
昼には遠く、朝と呼ぶには晩い。
シャワーを浴びたばかりの火照った肌に外気は熱く、洗い流した直後だと言うのに新しい汗が滲んでくるようだ。
それでも概ね平穏。平均気温よりは少し高い程度くらいの温度、それだけ。
日常の光景。普通の景色。夏の日差しは強すぎて、昼寝の誘惑に耳を傾ける気分にもならないが、
それだけに薄霞に包まれるような麗らかな状態とは程遠く、頭の中が日差しに炙られ覚醒していく。
降り注ぐ日光がガラス窓に反射し、虹彩に輝き放つ。七色の色で煌く光輪を瞳に躍らせる光流は言い難い感覚を感じていた。

あまりにも平和すぎて。
あまりにも平穏すぎて。
現在の状況を忘れそうになる・・・

いや、現在の事態が、夢幻の一種で現実ではないと錯覚しそうになる。
実は自分は夢の国にいて、夢の長い回廊を歩いているだけなのではないか。
未だ目覚めず、ただただ不可思議な出来事に巻き込まれる夢を見ているだけに過ぎないのでは・・・と。
目が覚めればなんて事はない・・・・今まで通りの世界の中、ベッドに寝転がっている自分がいて、視界には部屋の天井が見えている。
何も変わる事が無く。何も始まる事が無い。

なんて・・・ただ、自分がそう思いたいだけなのだろう。
そうであって欲しい、そうであれば良いと望んでいるだけの願望。

現状は楽観できる状況でない。
そんな状態に自分が陥っているのを自覚しながら達観できる性格でも年齢でもないのだから、この程度の願望は当然の事に違いない。
何にせよ、胸中では不吉を具現化した黒い蟲が蠢いていて、齎される焦燥感と焦慮感は、
麗らかな日差しに包まれた平穏な日常と言う甘い夢想を持続させてくれはしなかった。

瞳の中で踊る光の素粒子。その輝きから目を逸らせるように視線を壁際に逃す。
胸の中では相変わらず不安と言う名の毒虫が精神防壁に腐食性の強い毒を吐きかけ、心は毒素に徐々に侵食されている。

――――――重い。

強烈な夏の日差し、その鮮烈なほどの明かりを浴びた爽快感など一瞬にして吹き飛んでしまった。
今、こうしてのんびりとしている間に、彼女はどうなっているか・・・・
小矢の安否を思うだけで、心を照らす夏の日差しなど、厚く黒い暗雲の隙間から差し込む弱々しいまでの光でしかない。
風が吹いて雲が僅かに動けば、巨大な黒雲によって容易く遮られてしまう。
後に残るのは本当の自分。自分の心。
暗がりの底で、焦りと不安と苛立ちに押し潰されそうになりながら、縮こまっている。
一体何をやっているのか。呑気にしていていい筈が無い。ここで座っている場合ではない。
不安からくる焦りが背中を押す。なのに、どうしていいのか見当も付かず・・・動けない。
こんな時は、ただただ自分の手の小ささに気付いてしまう。
何も・・・できないのだ、と。

軽い眩暈。痺れにも似た鈍痛が眼球の奥に走る。
高望みも楽観もできない状況に自分が置かれているのを再確認すると絶望的な気分にも晒される。
暗い・・・暗い底無しの深淵。どこまでも真っ黒な淵を覗き込んでしまったような。

寒さに耐えるように、身体を丸める。
ゾクリとする冷気が肌に浸透して体内に感じた。
何気なく、昨日の言葉が思い起こされる。

彼女は―――――「怖い」と言った。
彼女・・・・季夕は。
普段から纏っている凛とした雰囲気も消えて失せて。
切れ長の勝気そうな目も崩し。
持ち前の強気さも、前向きさも、どこかへ無くなり。
捨てられ、雨曝しになっている子犬のように、弱々しいまでの瞳をして、泣きながら言った。
はっきり―――――「怖い」と。

同じだ。
怖くない筈が無い。
こんな世界と関わり合っていたくない。一刻も早く逃げ出したい。
元の暮らしに、元の生活に戻りたい。戻りたい。戻りたい。
それが本音。嘘偽りの無い心の声。
季夕に聞かれるまでも無い。自分の心の声なんかとっくの昔に聞こえている。
この世界から逃げ出したいと言う声なんか、聞こえている。
それが出来ないのは何故だろう。

意地ではない。
勇気とも違う。
うまく言葉に置き換えられなかった。
意固地になっているようにも思えるし、そうした部分もあるのだろうが・・・多分、そうではない。
良く解らない。何かに拘っているような・・・
とりあえず、小矢を助けてそれで終わり。
それでいいはず・・・それで・・・

幾度と無く繰り返されてきた思考から半ばうんざりしたようにして意識を横に背ける。
ふと・・・何か、とても小さな事が気になった。
数瞬の後「・・・・あぁ、そう言えば」と、一人ごちる。

昨日から姿の見ない瑠香の事が頭を過ぎった。
思い返してみれば、昨夜から今朝まで全く姿を見ていない。
今朝起きて、顔を洗って、シャワーから出て来る今までの間、見ていない。
家に・・・帰っていないのだろうか。
・・・無断外泊。
なんて言葉が浮かび上がる。
今まで夜晩くまで外出している事はあったが、外泊するなんて事は一回も無かった。たった一度の例外も無い事だった。
それだけに昨夜帰ってこなかったとしたら心配になる。
何かあったのかもしれない。事故に巻き込まれたのかもしれない。
それは、自然で、当然の心配だった。
夏休みなのだから、友人の家に泊まりに行っただけなのかも。連絡するのをうっかり忘れているだけなのかもしれない。
などといった考えは思い浮かばなかった。元より、瑠香にそれほど仲の良い友人がいると思っていないからだ。
仲の良い友人がいる筈も無い。殆どそう決め付けているのだが、縁者としてこの決め付けはかなり酷いものだろうな。
妹に等しい少女を捕まえてかなり酷薄なイメージを持っている自分は酷い人間。
・・・みたいな事を考え、光琉は微かに苦笑した。

瑠香の事も気になった。気にはなったが確認する手段が無かった。昨夜から今朝にかけて、帰宅したかどうかを確認する手段が。
それに別の事の方が重要だった。それに比べれば、瑠香の無断外泊など些細な事としか映らない。
家に連絡も入れずに外泊する。別に不思議でもない。子供ではないのだから、そんな事があっても不思議じゃない。
瑠香に親しい知り合いがいないと決め付けるのが早合点なのだ。そもそも彼女の事を詳しく知りもしないのだから言い切れない。
ただ単に自分がそうだと思っているだけ。自分が持つ瑠香のイメージから作り上げた勝手な想像に過ぎない。
想像と事実が違うなんて事は珍しくも無い。
仮に事故にあったとしたら、病院なり警察なりから連絡があるだろうし、電話は昨夜から今に至るまでベル一つ鳴ってはいない。
それに・・・気付いていないだけで、昨晩帰ってきていたかもしれないのだ。気に病みすぎ・・・その可能性も無きにしも非ず。

今は瑠香の事よりも季夕が何故か気になった。昨晩の会話を思い出した所為かもしれない。
精神的な安定を欠き、思い詰めているような、危なかしい様子。昨日の今日で落ち着いていれば良いのだけれど・・・
気になった。白いシーツに黒いインクが滲み、広がっていくように・・・あまり良いとは言えない予感めいたものを感じて、気になった。

殆ど反射的と言って良い行動だった。
ズボンのポケットに捻じ込んであった携帯電話を取り出すと、素早く短縮ボタンを押す。
機械的なコール音が耳に響く。一定のテンポで一回・・・二回・・・三回・・・四回。
無機的とも言えるコール音だけが虚しく続く。回線は繋がる気配さえも無い。
八回目のコールを数えた時、スピーカーの向こうから「ブッ」と言う接続音が聞こえ、光琉は知らずに身を乗り出した。

「あ、季ゆ・・う・・」

一瞬は綻びを見せたかに見えた口元には、すぐさま硬さが戻ってきてしまう。
接続音の直後に聞こえてきたのは、聞き慣れた幼馴染の声などではなく、留守番電話転送サービスのアナウンスが機械的な声だった。
アナウンス後に続く発信音を聞きながら肩を落として通話を切る。落胆と失意が溶けて表情に滲む。

無意識のうちに腕が上がり、胸の辺りのシャツを握り締めた。
なんとはなしに胸騒ぎがした。嫌な予感が芽生えている。
気にしすぎかもしれない・・・単なる予感であって何ら根拠のあるものではなかった。
だが、虫の知らせと言うやつは馬鹿に出来ない時もある気がした。

「・・・・よし」

ソファに腰掛ける状態で考え込むようにしていたが、暫くすると思いたって立ち上がる。
今日とりあえずの目的が出来た。
まずは何となく気になっている季夕の様子を見に行こう。
胸騒ぎがただの胸騒ぎでしかない事を確認して、それから・・・それから後の事はその時考えればいい。

決めると後の行動は早かった。元々考え悩む性格をしてはいないのだ。
今までは動き出そうにもその矛先を見失っていた状態だった。
どう動けばいいのかが全く解らなかったのだが、とりあえずの目的が出来れば後は実行するだけである。
行き場を失っていた感情の流れがようやく出口を見つけたように、明確な目的が見えると行動は容易かった。

必要なものは服を着替える時にまとめてズボンのポケットに捻じ込んである。
何よりもただ待つ事には心底我慢の限界だった。気が狂う前にとっとと動き出したいところだった。
決めるや否や、玄関から外に出ていた。
半ばは家の中で待つ事から逃げ出すように。半ばはザワザワと蠢くように騒ぐ胸騒ぎを静める為に。

目が眩むほどに強い日差しは暑く、じりじりと肌を焼く。
片手で強烈な陽光を遮りながら、眩しそうに頭上を仰ぎ見る。
本当なら蒼一色に染め抜かれ、晴れ渡った空を見上げ、爽快な気分にでも浸るところなのだろう。
光琉にしても、置かれている状況が状況でなければ、快晴の天気を満喫し、
上空を仰いでいた目を細め、視線を地上に戻す。
強く輝く夏の太陽は目に眩しいだけで、心の中までも照らし出してはくれなかったようだ。
何かを振り切るようにして短く小さな呼気を吐き出す。
黒い靄みたいなものが立ち込めるているようで、心はスッキリとしない。それどころか刻々と嫌な予感が滲み出してくる。
見えない何かに背中を押される形で、歩調は足早なものになっていった。

目的地にはものの数分で到着した。此花の家から季夕の自宅までは殆ど目と鼻の先だ。
それでも玄関に立った頃には肌から汗が滲み、背中には塗れたシャツが張り付いていた。
暦の上では夏の後半だというのに、ここにきて炎天下の装い新たにし、太陽は過熱している。
雲ひとつとしてない青空とあっては、苛烈な日差しを弱める何物もなく、通り過ぎる何人かが一面の晴れ空を恨めしげに仰ぎもしていた。
強く熱い日差しがアスファルトに照り返し、外気はさながら瘴気のようですらあった。
こんな天気があと数日も続けば、アスファルトが溶け出してさぞや歩き難くなるだろう。
街中で陽炎が揺らめき、蜃気楼でも浮かび上がるかもしれない。

顎先から滴り落ちる汗を拭った腕でチャイムを押す。
季夕の家に訪問するのは実に久方振りだったが、胸騒ぎが第一にあって懐かしさを噛み締める心境にはならなかった。

数分が経過しても玄関は開かない。怪訝に眉を顰め、ノブを回す。
抵抗があるのを予想し力を入れていたが、ノブは思いの外スムーズに回転し、拍子抜けする。
鍵はかかってなく、容易く玄関は開く。隙間から顔を覗かせる。玄関から伸びる廊下と奥にある階段はシンと静まり返っていた。

「・・・・」

声を出して呼び掛けようかとも思ったが、途中で躊躇い言葉を飲み込む。
余りにも静か過ぎた。遠くから聞こえる蝉の鳴き声がやけに五月蝿く、それだけに、家の中は物音一つしていないのがハッキリ解る。
呼んでも無駄。誰も居ない。その認識が確かなものだと思える。

季夕の両親は共働きをしている為、この時間家にいなくても不思議ではない。が、季夕本人は別だ。
日時が異なっていれば、自主トレにでも出かけたのか、それとも、街中をブラブラ散策しているのか、とも思えた事に違いない。
しかし、昨日の今日であってはそうした平和な日常の予測を思い浮かべられなかった。
思考のベクトルは、自然、胸騒ぎへと直結していく。

沸き起こる不安を捻じ伏せ、冷静である事を自分に言い聞かせる。
落ち着け。落ち着け。落ち着け・・・・念じるように繰り返す。
まだ決まった訳でも無い。実際に何処か出かけているだけなのかもしれない。
そう繰り返す自分の考えに機械的に頷きながら、嫌な予感は払拭されないでいる。
早とちりして事態を自分で複雑にする真似はしたくなかったが、一度揺さぶられた不安は中々に落ち着いてはくれない。

胸騒ぎが一斉にザワメキ出す。
嫌な予感は霧の姿となって胸中に音も無く広がっていく。
熱いのか冷たいのか、判断しがたい汗がじっとりと背中に滲み出すのを感じながら、光流はポケットに手をやっていた。

携帯電話を取り出し、短縮2をプッシュする。
耳に木霊する呼び出し音は、だが、意外な場所からも聞こえた。
携帯のスピーカーが普段通りの電子音を吐き出した時、家人のいない家の中から電子音に同調するようにしてテンポの良いメロディが流れてきたのだった。

最初、それが何か解らなかった。いや、解っていたが頭がそうだと認めるのを頑なに拒んでいた。
数瞬の空白を過ごし、頭を疑問が過ぎる。「なぜ、この音が・・・?」と口の中で呟き、眉を寄せる。
遠くで鳴く蝉の合唱に混じって聞こえる違和感。

最新のヒットチャートにランクインしている曲を前触れもなく耳に入れている光流の頬に一粒の汗が新たに浮かび、滑り落ちた。
流れ落ちる汗が病原体を孕む毒素の結晶のように不快だった。
鼓動が煩く、逆に血の巡りはいやに冷ややかに思えてならない。

CMで何気なく流れている耳慣れしたメロディ。廊下奥に見える階段、その上階から小さく木霊する有名曲。
一月、二月で変更する着信メロディは季夕が最近登録したものだと記憶している。
右の耳に流れ込む呼び出し音と、左の耳に飛び込んでくる着信メロディを聞き、光流の表情はさらに険しいものになった。
無人の家の二階から、着メロは響いている。家に人の気配が無いのは確かだ。
考えるまでもない事だった。彼が連絡を求める相手、季夕が携帯電話を家に置きっ放しにして外出しているのだ。

「・・・・・どいつもこいつも。
 どいつもこいつも余計な心配ばかりさせやがる」

肩を落胆させて、力なく指を動かし携帯の呼び出しを切る。
知らずに疲労の色を滲ませたような吐息が口を衝いた。

携帯を忘れて出歩く事がそれほど奇異だとは思わない。うっかり忘れる事もしばしばある。
気にするような事でも無いと自身に言い聞かせながらも気になっていた。
頭の中では不安と言う名の画家が、妄想癖に等しい病状で悪い予想図ばかりをせっせと描き出す。
玄関ドアに背を凭れさせ、これからどうするかを考えた。
まず、季夕の様子を見て、気掛かりを一つ減らそうとここに来たのに、減らすどころか気掛かりは不安へと育ってしまった。
口端がひくつく。苦笑を浮かべようとして失敗し、不細工に唇が歪むだけだった。

背中をドアから引き剥がすと、頼りない歩調で家人のいない家を後にした。
思考は纏まりがなく、上手く機能しない。そのくせ、嫌な未来予想図だけは勤勉に作り上げ、脳裏のスクリーンに投影してくる。
覚束ない足が向いた先は、たった今出て行った此花の家だった。
家に居て待っていたって落ち着かないと言っても、他に行くあてもなく、向かう先など何一つ無かったのだ。
一箇所で塞ぎ込んでいるより、あてなどなくとも街中をぶらつく方が良いかとも考えたが、どうもそんな気になれなかった。
季夕の家で、昨晩の弱々しいイメージを払拭できる普段通りの凛々しい彼女に会っていれば、街中をぶらつく気分にもなれた事だろう。
複種類の不安を抱えながらあてもなく歩くには、この日の太陽は熱く、また、照り付ける日差しは芯の抜かれた心にとって苦痛になるほどに強かった。

結局、行き場所なんて何処にもないのだ。
不安と焦燥感と苛立ちに苛まされ、耐えながら、家でじっと待つしかないのである。

重たい気分を引き摺りながらつい先ほど開け放ったドアを再び潜る。
留守にした時間は数分間程度足らずで、戻った此花の家に人気は感じられない。
玄関を開ける際、小矢が自力で脱出し、家に戻っているかもしれない、と、
そんな甘い夢想が浮かばないでもなかったが、静まり返った家内を見渡してもショックなんてものは受けない。
甘い考えを持ったは持ったが期待はしていなかったのだから。

「・・・っ」

靴を脱ごうとして、踵に指を入れたところで光流の動きが不意に止まった。
不安に翳り、意気消沈していた表情に微細な変化が表れる。
眉間に浅く皺が刻まれ、肩眉がクッと顰められた。

予期していなかったが存外に早い。
脳髄に直接木霊し、反響を響かせるような音律。
金属同士が擦り合わされ、そこから生じる独特の音がまるで頭蓋の内側を震わせているかのようだ。

―――――“共鳴”。

鼓膜から脳に流れているのか、脳の振動が鼓膜にまで伝わっているものか、ともかくも感じた耳鳴りには覚えがあった。
耳鳴りに覚えと言うのもおかしな話だが、
“魔”同士が互いの存在を感じる“共鳴”現象の点で言えば、覚えは光流が一度は会っている“魔”が近くに居ると言う事になる。

そして、今感じている耳鳴りは彼が昨夜から待ち焦がれていた感覚と同一のものであった。

片方の靴を脱ごうとしていた動作も中断し、玄関から飛び出る。
周囲を見渡すまでも無い、耳鳴りで相手のいる方向は何とはなしに解っていた。
数十mを駆け、緩やかな傾斜をつける坂道の脇に目的の人物は見つけられた。
歩道を少し外れ、道路の左右に広がる少しばかり山道を思わせる、藪とも草地とも言い難い景色。
足首ほどの雑草と、それなりに背の高い木々の中、少女は居た。

この炎天下の下でさえ変わらぬ古風な着物姿。
直射日光を避けるように木陰に身を潜めているが涼んでいるとは到底思えない顔には汗一つとして浮かんでいない。
白く秀麗な顔立ちは外界の気温と全く無縁の存在なのか、淡く色づく朱色の唇はきつく引き結ばれ、
ややきつめの目付きも昨晩別れたままで、季夕が感じさせるソレを何倍かにさせたような、一種、清涼とさえ言える「凛」とした空気を纏っていた。
空気すらも乾燥する中、少女の周りだけは水気をも帯び、霞のように涼しげに感じられる。

「・・・随分と早いお出ましだ」

着物姿の少女に近付く光琉は最初「やぁ」と凡庸な挨拶を口にしようとしたのだが、
この場にも相手にも相応しい言葉とは思えず、別の、とりあえず浮かんだ言葉を口にしただけだった。
無意識から出たものは皮肉るような台詞だったが、内心は発言とは正反対逆で、安堵感に近いものを抱いていた。

光琉の口元に微かに浮かぶ笑みを見逃さず、しかし、少女はまるで関心を示さず、黒水晶の瞳を向けている。
瑞々しい桜の花弁を思わせる唇が動くと澄んだ声が音楽的に流れ出る。美声と呼んで差し支えない声だったが温かみは無かった。

「状況が変化してな、時間が無い。
 思案するに充分とは言い切れないが、それでも昨夜から今朝まで15時間はあった」

高圧的な言い方だが、不思議と嫌な感じはしない。同じ事をシェミハウルが言ったのなら反感を覚えるに違いない。
黙って頷く光琉。15時間以上の時間は一つの事に答えを出すのに事足りるとは断言できないまでも、足りなくはなかった。
答えは既に出されている。

「あんた等の力、借りるよ。
 真実、俺だけじゃどうにもならないからな・・・」

自分の非力さと無力さを素直に認める彼に好感を覚えでもしたか、
少女はガラス細工に等しい黒い瞳に淡い感情の光が霞め、口元も僅かに和らいだ印象を受けた。
と、そう見えたのは、光琉の勘違いであったかもしれない。
今後どれくらいの期間に及ぶのか現時点では解らないが、手を組む相手に精一杯好意的であろうとする思い込みが見せた錯覚だったかもしれない。

この時には気付きもしなかった。
悪い時に限って、悪い予感と言うものは当たると言う理を。
悪化している状況、楽観できない現実を認識する脳はだからこそ正しい情報を得るのだろうか。
――――皮肉と言うしかない。
悪い状況の中だからこそ、思考は理性的に、冷静になって、正確な情報を集め、それに基づいた未来予想図を描きあげる。
そんな、人の悟性の皮肉とも言うべきものを、光琉は後日に痛感する事となった。



【第参章・表 完】


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